米国食品医薬品局(FDA)による食品中の病原微生物と天然毒素についてのハンドブック、Bad Bug Bookにフィトヘマグルチニン(インゲンレクチン)の情報が掲載されています。
Bad Bug Book
フィトヘマグルチニン(インゲンレクチン)
●フィトヘマグルチニン(インゲンレクチン)
Phytohaemagglutinin (Kidney Bean Lectin)
レクチンあるいはヘマグルチニンはTリンパ球のDNA合成誘導、最近ではヒト末梢血リンパ球に存在する潜伏性HIV-1ウィルスを活性化する目的で、長
年免疫学者が使ってきた。レクチンは細胞分裂を促進するほか、多くのほ乳類の赤血球凝集、細胞膜の輸送系の変化、細胞のタンパク質透過性の変化、および一
般に細胞の代謝に影響する活性があることが知られている。
●急性疾患の名称
この物質による急性疾患は、赤インゲン豆(Phaseolus vulgaris)中毒、金時豆中毒などと呼ばれている。
●疾患の症状
生または調理が不十分なインゲン豆を食べてから症状が出るまでの時間は1~3時間である。発症は激しい吐き気と嘔吐で、重症の場合もある。しばらく(1~数時間)して下痢、人により腹痛がみられる。人によっては入院するが回復も早く(3~4時間)、自然に回復する。
●食品との関連
原因とされるフィトヘマグルチニンは多くの豆に含まれるが、赤インゲンに最も高濃度含まれている。毒素はヘマグルチニン単位(hau)で表されるが、生
の赤インゲン豆は20,000~70,000 hau、十分に調理した豆は200~400
hauを含む。白インゲン豆の毒素含量は赤インゲン豆の1/3、ソラマメの場合は赤インゲン豆の5~10%を含む。
疾患は通常、生や水戻ししたインゲンを単独もしくはサラダや鍋料理(キャセロール:西洋料理の一種。肉や野菜を調味料と共にとろ火で煮込んだ料理のこ
と。)などで食べた時に生じる。わずか4~5個の生の豆で発症しうる。内部の温度が十分に高くならなかった「スロークッカー」、電気鍋、キャセロール料理
などに関連した発生の報告がある。80℃で加熱すると毒性が5倍になり、生より危険であることが示されている。スロークッカーで調理した場合、内部の温度
は75℃より高くならない。
●疾病の経過と合併症
経過は急性である。全ての症状は発症から数時間で消失する。嘔吐は大量で、症状の重症度は摂取した毒素の量(食べた生の豆の数)に直接関連する。入院や点滴が必要な場合もある。期間は短いが、症状としては激しく衰弱する。
●標的集団
年齢・性に拘わらず誰もが等しく感受性がある。重症度は食べた量にのみ関連する。
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また、インゲン豆による中毒事例の文献も合わせて紹介します。
・Food poisoning from raw red kidney beans.
Noah ND, Bender AE, Reaidi GB, Gilbert RJ.
Br Med J. 1980 Jul 19;281(6234):236-7.
(PMID:7407532)
・Toxicity of kidney beans (Phaseolus vulgaris) with particular reference to lectins
Bender, A.E., Reaidi, G.B.
J. Plant Foods. 1982 ; 4(1): 15-22.
・Red kidney bean poisoning in the UK: an analysis of 50 suspected
incidents between 1976 and 1989.
Rodhouse JC, Haugh CA, Roberts D, Gilbert RJ.
Epidemiol Infect. 1990 Dec;105(3):485-91.
(PMID:2249712)
※この情報は、国立医薬品食品衛生研究所安全情報部発行「食品安全情報」を転載したものです(1)。
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