2018年5月24日木曜日

テラー・ウラム型の基本原理

基本原理

テラー・ウラム型の基本原理は、熱核兵器内の異なった部分が各段階の爆発で生じたエネルギーを、次の段階の起爆に利用する”多段階”として連鎖反応させられるという考えに基づいている。最小限の構成では、核分裂爆弾で構成されたトリガーとしてのプライマリー(第1段階)と、核融合燃料で構成されたセカンダリー(第2段階)の部分から構成される。段階式である理由により、セカンダリーと同じ構成をターシャリー(第3段階)としてさらに核融合燃料を追加することも可能である。プライマリーからのエネルギー放射によりセカンダリーが圧縮され、爆縮論理により核融合燃料が加熱されて反応が始まる。

テラー・ウラム型構成の一例
核融合燃料は放射性物質(ウラン235など)の容器に入っており、これはプライマリーで生じたエネルギーを一時的に閉じ込める役割を果たす。容器の外側は爆弾自体の容器であり、これは全ての熱核爆弾に共通の構造で、一般に公開されるのはこの外観だけである。異なった熱核爆弾の外観をとらえた膨大な写真は、機密解除されている [3]
プライマリーは一般的な”爆縮”型原子爆弾であると考えられているが、核分裂反応の強化(ブースター)用に少量の核融合燃料も添加されている場合がある。核分裂反応で核融合燃料が加熱・圧縮されると大量の中性子を放射する。一般的には核融合爆弾を造る能力がある程の技術者であれば、核分裂反応を強化することも自在である。プライマリーが起爆されると、プルトニウム239、またはウラン235の核が爆縮レンズ形状に配置された高性能爆薬により球形に圧縮され、連鎖反応を起こして核分裂エネルギーを発生させる。
セカンダリーは通常、核融合燃料とその他の材料との円筒形積層構造になっている。円筒のいちばん外側は”プッシャー・タンパー”という部分で、ウラン238(劣化ウラン)やで出来ており、核融合燃料の圧縮を助ける働きをする(ウランの場合には、最終的に自身も核分裂反応を起こす)。核融合燃料部分は通常水素化リチウムで構成される。この理由は極低温の必要がある液化重水素/三重水素を使用するよりも兵器としての運用が遙かに容易なためである(比較として、液化三重水素を使用したアイビー作戦マイク実験と、水素化リチウムを使用したキャッスル作戦ブラボー実験があげられる)。水素化リチウムを用いたものは、乾式と呼ばれる。この"乾式"燃料にプライマリーからの中性子が当たると三重水素が発生する。この重い水素の同位体は、燃料に元々混ぜられている重水素と共に核融合を起こす(核融合時の技術的な振る舞いに関しては、核融合記事を参照のこと)。積層燃料の中心部には”スパーク・プラグ”と呼ばれる部分があり、ここには意図的に”空気の泡”が入れられた核分裂物質(プルトニウム239、またはウラン235)があり、この部分もプライマリーの爆発により圧縮されると核分裂を起こす(圧縮により臨界量を超える様に設計されているため)。さらにターシャリーを設置する場合には、セカンダリーと同等の構造のものを、プライマリー=セカンダリーと同等の位置関係で、外側に設置する [4] [5]
プライマリーとセカンダリーの二重構造となっている理由は、その中間段階にある。核分裂を起こすプライマリーは3種のエネルギー(高温高圧のガス、強力な電磁波、大量の中性子)を発生する。この中間部分の存在により、プライマリーからセカンダリーへの核融合反応発生のための必要なエネルギー変換を行なわれている。この部分は高熱のガス、電磁波、及び中性子を正しい方向に正しいタイミングで送り出すために重要である。中間部分を持たない構造では、セカンダリーは完全には起爆しない場合が多く、この状態は”フィズル”として知られている。キャッスル作戦の”クーン実験”は良い例で、高圧ガスによるセカンダリーの圧縮がまだ不十分な内に大量の中性子放射が始まってしまい、結果として核融合反応を阻害してしまった。
公開されている文書の中では、この中間段階に関する記載は極く少ししか無い。その中でもベストなのは、米国のW76型核弾頭によく似たイギリスの熱核爆弾の簡略構造図である。これはグリーンピースによって"Dual Use Nuclear Technology"と言う名称で報告されている[1] (清書版はこちら[2])。この構造図には、主な部品とその配置が描かれているが、詳細については殆どが欠けている(この部分は故意に省略された可能性が高い)。これらは”終端キャップと中性子集束レンズ”、及び”反射板覆い”と表記されている。中間部分には、プライマリーからスパーク・プラグへの中性子の通路と、セカンダリーへのX線の反射通路がある。一般的に全体を包む容器は、ウラン等のX線を通さない物質で造られる。ただしここはプライマリーからのX線をの様にを反射するのではなく、代わりにX線によって高温状態になり、X線をムラ無くセカンダリーに伝える(この現象は”放射爆縮”として知られている)。次に”反射材/中性子銃砲架”は、中央にある中性子集束レンズとプライマリー側の全体ケースとの隙間を埋め、X線の反射材として機能している間はプライマリーとセカンダリーを分離させ、中性子銃砲架のうちのおよそ6個(詳細はサンディア国立研究所[3]を参照)は各々の一端と共に反射材の外側に突き抜けて砲架に留められ、反射板覆いの周囲に均等に配置される。しかしながら各々は、隣のものよりも高い位置に傾いて取り付けられている(これは銃身ライフリングに似ている)(”ポリスチレン偏光プリズム/プラズマ源”は以下を参照のこと)。
米国政府の文書で中間段階に関して最初に解説されたのは、公開された高信頼性代替核弾頭(Reliable Replacement Warhead)の中である。この文書では、機構単位でみた"RRW"の潜在的優位性について述べられており、中間段階方式の”有害物質、不安定な物質、そして高価で特別な材料”を置き換える”特別な機構”を有するとしている [6]。 この”有害で不安定な物質”とはベリリウムを指しており、これはプライマリーからの中性子の流れを加減するものと広く知られている。またX線の吸収と再放射のためにも、いくつかの物質が使われている [7]
特別な材料としては、非公式なコードネームで”フォグバンク(Fogbank)”と呼ばれるものがあるが、これは物質ではなく構造部品であると考えられている。この構造部品はエアロゲルである可能性が指摘されている。しかしながらこの生産は、もう何年も行われていないが、”核兵器の延命作業”には生産再開を必要としている(唯一アメリカ合衆国エネルギー省国家核安全保障局Y-12プラント(テネシー州オークリッジ)のみが供給可能な工場である)。この製造には有害で不安定なアセトニトリルを必要とし、これは作業者に危険が及ぶ可能性がある(2006年3月には、3度の事故を起こしている) [8]。 上記の内容を簡略化すると、以下の様になる。
  1. まずプライマリーとして、爆縮型の核分裂爆弾が爆発する。核分裂反応の効率を高めるためにプライマリー・コアに核融合燃料も使用することは、反応の”増強(Boosting)”と呼ばれる。極少量の三重水素ガスがブースター用として、プライマリー内部に入れられていた場合、三重水素は核分裂爆発により圧縮されて核融合反応が発生する。この核融合反応は核出力にほとんど寄与しないが、効率的に中性子を発生させる。この中性子が核分裂反応のブースターとして作用し、発生した中性子はプライマリー内のウラン235やプルトニウム239にさらなる核分裂を起こさせる。このブースティングにより、核分裂燃料の反応する割合を向上させることができる(この増強手法を使わなかったため、リトルボーイでは1.4%、ファットマンでは14%が実際に反応を起こした部分であると言われている)。
  2. プライマリーで発生したエネルギーは、セカンダリーの核融合燃料部分に転送される。しかしながら、転送の正確な仕組みは不明である(この仕組みに関する推測は下記を参照のこと)。転送されたエネルギーは、核融合燃料及びスパーク・プラグを外側から圧縮する(圧縮されたスパーク・プラグは臨界に達し、核分裂連鎖反応を起こす。この反応で出る熱は、圧縮された核融合燃料をさらに加熱し、核融合反応が起こるに十分な温度にまで燃料の温度を上昇させる。さらにスパーク・プラグの核分裂反応は中性子を発生し、これが核融合燃料中のリチウムから核融合を起こす三重水素を生成させる)。一般的には、一定の容積内にある気体分子の運動エネルギーが上昇すると、気体の温度と圧力が上昇する(これは一般的な気体の振る舞いである)。
  3. セカンダリーの核融合燃料は、通常は劣化ウラン天然ウランのタンパー/プッシャーに囲まれており、この部分のウラン238は通常の核分裂爆弾で発生する中性子では核分裂を起こさないが、核融合燃料が反応を起こした際に発生する高速中性子では核分裂を起こし、場合によっては核融合によるエネルギー以上のエネルギーを発生させる。
実際の熱核兵器のデザインは多様である。例えば、プライマリーで核分裂反応のブースティング機構を使うか使わないか、異なった種類の核融合燃料を使うか、核融合燃料の周囲を劣化ウランや天然ウランではなくベリリウム(または中性子を反射する材料)を使用し、さらなる核分裂反応が起こる事を抑制する等がある。
テラー・ウラム型の基本的な考えは、核分裂や核融合(またはその両方)の各”段階”がエネルギーを放射し、これを次の段階の起爆に使用するというものである。プライマリーで発生したエネルギーを正しくセカンダリーに伝える方法に関しては、いくつかの異なる論議があるが、主にプライマリーの核分裂で放射されるX線を転送することで行っていると考えられている。この転送されたエネルギーはセカンダリーを圧縮することに使われるが、この方法に関しては5つの理論が提案されている。
  • プライマリーの核分裂反応による中性子の放射を使用する方法。これは”スタニスワフ・ウラム”の最初の提案だと言われているが、正しく機能しなかったために破棄された。
  • プライマリーの爆発による衝撃波を使用する方法。これはスタニスワフ・ウラムの2番目の提案だと言われているが、やはり正しく機能しなかったために破棄された。
  • X線による放射圧力を使用する方法。この方法は最初の実用案であったが、米国人ジャーナリストハワード・モーランドにより The Progressive 誌上で公開されてしまった。
  • X線により、容器内の充填物(ポリスチレン)からプラズマを発生させる方法。これは米国人の研究家チャック・ハンセンにより公開され、後年になってからはハワード・モーランドもこちらに賛同した。
  • タンパー・プッシャー蒸発圧力法。これが現在、実際に使われている機構だと考えられている。
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