核燃料サイクル
核燃料サイクル(かくねんりょうサイクル)とは、核燃料にかかわる核種および資源の循環を指す。 狭義には核燃料物質特有の核種変換系統を、広義には商用炉を中心とする原子炉用核燃料の製造から再処理と廃棄(核燃料リサイクル、原子燃料サイクルとも言う)を意味する。
多くの場合、ウラン235を巡る後者の意味で用いられ、鉱山からの鉱石(天然ウラン)の採鉱、精錬、同位体の分離濃縮、燃料集合体への加工、原子力発電所での発電、原子炉から出た使用済み核燃料を、再処理して、核燃料として再使用できるようにすること、および放射性廃棄物の処理処分を含む、一連の流れのことである。 鉱山からの鉱石の採鉱から核燃料への加工までをフロントエンド、再処理以降をバックエンドと分けることもある。
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概要 [編集]
フロントエンド・サイクル [編集]
詳細は「天然ウラン」を参照
ウランは地球上の地殻や海水中に広く分布しており土壌には平均2~4ppm(おもな分布範囲は0.7~11ppmで農地ではリン酸系の化学肥料の使用により最大15ppm)、海水中には0.003ppm含まれると推定されており、その総量は銀の40倍、スズと同量におよぶ。その内、確認可採埋蔵量は547万トンで可採年数は60~80年と推定されている。(エネルギー庁の試算2007年時点でキロあたり130USドルの採掘コストで。2007年度のウランの世界需要は約7万トン、2010年度のウランの平均スポット価格は44ドルであった。) 鉱床のある主な資源国はオーストラリア、カザフスタン、ロシア、南アフリカ、カナダ、アメリカ、ナミビア、ブラジルなど石油のような極端な資源の偏在性はない[1]。
- 採鉱(Mining)
- ウラン鉱床は露天および地中にあり他の鉱物と同様に採掘される。溶媒抽出法(ISL In-situ leaching)と呼ばれる採掘方法も実用化されている。
- 精錬(Milling)
- 採掘されたウラン鉱石は粗製錬工場で粉砕・選鉱されウラン含有率を60~75%ぐらいまで高められる。この粉体をウラン精鉱(イエローケーキ)と呼び八酸化三ウラン(U3O8)の含有量で値決めされる。イエローケーキはドラム缶に詰められて転換工場へ出荷される。
- ウランの転換(Uranium conversion)
- イエローケーキは転換工場で処理され六フッ化ウラン(UF6)となる。これは48Yシリンダー(直径約1.4m、長さ約3.8mの鋼製円筒容器)と呼ばれる輸送容器に封入されて濃縮工場に出荷される。
- 濃縮(Enrichment)
- 六フッ化ウラン(UF6)は濃縮工場でウラン235の比率(濃縮度)を0.7%から3~4%(核燃料グレード)へ高められる。(核兵器グレードでは90%まで濃縮される。)濃縮工程では大半(96%)は副産物の劣化ウランとなる。アメリカには47万トンの劣化ウランがある[2]。
- 燃料集合体への加工(Fabrication)
- 核燃料グレードの六フッ化ウラン(UF6)は燃料加工工場にて二酸化ウラン(UO2)の燃料ペレットへ加工され被覆を施され燃料棒となる。
バックエンド・サイクル [編集]
詳細は「放射性廃棄物#使用済み核燃料の処理」を参照
原子力発電所から発生する使用済み核燃料には、「燃えないウラン」である非核分裂性のウラン238、ウランから生成されたプルトニウム、僅かながら「燃えるウラン」である核分裂性核種のウラン235、各種の核分裂生成物が含まれる。このプルトニウムやウラン235を抽出し核燃料として再利用すれば、単に廃棄処分することに比べ多くのエネルギーを産出できる。また、使用済み核燃料のウランやプルトニウムを取り出すことになるため、 放射能が減少し、廃棄物の量が減ることにもなる。更にウランは比較的政情が安定した国に多いため、ウランを全面的に輸入に頼る国でもエネルギーセキュリティ上のリスクは少ないが、核燃料サイクルで核燃料の有効活用と長期使用が出来ればよりリスクを低減できることになる。
一方、核関連施設や運搬が増える為、特にプルトニウムを扱うために高いセキュリティが要求されるとの指摘もある。
バックエンドサイクルは再処理事業、濃縮事業、廃棄物管理事業、埋設事業に分けられる。
使用済み核燃料中間貯蔵 [編集]
日本国内で発生した使用済み核燃料は、各原子力発電所内等で保管されている。原子力発電所外の中間貯蔵施設として、リサイクル燃料貯蔵株式会社の中間貯蔵施設(青森県むつ市)が建設中。
再処理 [編集]
MOX燃料加工 [編集]
放射性廃棄物の処理処分 [編集]
詳細は「放射性廃棄物#放射性廃棄物の分類と処分方法」を参照
高レベル放射性廃棄物、TRU廃棄物、低レベル放射性廃棄物はそれぞれの物性に応じて段階的処分が適用される[3]。
- 高レベル放射性廃棄物及び一部のTRU廃棄物は地下300メートル以深の廃棄施設へ埋設される。
- 低レベル放射性廃棄物の内放射能レベルの高いものは地下50~100メートルに作られるトンネル型またはサイロ型施設に搬入され埋設される。
- 放射能レベルが比較的低い廃棄物は地下約10メートルのコンクリート製の収納施設に搬入後施設ごと覆土され埋設される。六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターで1992年より実施中。
- 放射能レベルが極めて低い廃棄物は地下数メートルにそのまま(人工建設物は無し)埋め立て処分される。日本原子力研究開発機構・廃棄物埋設施設 (茨城県東海村)にて実施。
- 放射能レベルが極めて低い廃棄物の内で有害な化学物質を含むものは、有害物質の管理処分基準に沿った処分施設で処理される。
再処理の過程で発生する高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)は、平成 21年末現在で、1,664 本が国内で貯蔵されている。ガラス固化体は、30~50年間冷却のために貯蔵された後、地下300mより深い地層中へ複数の障壁を施して埋設処分される予定である。
再処理施設やMOX燃料加工施設から出る低レベル放射性廃棄物(TRU廃棄物))は、2009 年3 月末現在、日本原子力研究開発機構と日本原燃再処理施設内において、200ℓドラム缶に換算して約14.5 万本の廃棄物が保管されている。
ウラン濃縮施設やウラン燃料成型加工施設から出るウラン廃棄物は、2009年3月末時点で200ℓドラム缶に換算して約10万本が保管中である。
各原子力発電所の運転により発生する低レベル放射性廃棄物は、減容等の処理をした後、最終的に埋設処分される。2009年3月時点で、各原子力発電所の貯蔵施設内に、200ℓドラム缶に換算して約62万本分が貯蔵されている[4]。日本原燃は青森県の六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターで、2009年3月までに、約22万本のドラム缶を埋設処理した[4]。
廃炉 [編集]
また核燃料サイクルからは外れるが、原子炉の廃炉解体に伴う廃棄物にも放射性廃棄物が含まれる。110 万kW 級の軽水炉の場合の廃棄物は総量約50~54万トン、その内放射性廃棄物は1万トンと見積もられており、これらも放射能レベルに応じて処理されなければならない。解体費用は数百億円と見積もられている。
日本の核燃料サイクル [編集]
核燃料サイクル政策の検討 [編集]
2005年に「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」の見直しが行われ、以下の四つのシナリオが検討された。
- シナリオ1 全量再処理(現行路線)
- 使用済み核燃料は六ヶ所再処理施設で再処理を行う。処理能力を超えた分は中間貯蔵を経た上で同じように再処理を行う。
- シナリオ2 部分再処理
- 使用済み核燃料は六ヶ所再処理施設で再処理を行う。処理能力を超えた分は中間貯蔵を経た上でそのまま埋設して直接処分する。
- シナリオ3 全量直接処分(ワンススルー)
- 使用済み核燃料はすべて中間貯蔵を経た上でそのまま埋設して直接処分する。アメリカ、ドイツ等で採用。
- シナリオ4 当面貯蔵
- 使用済み核燃料はすべて当面の間中間貯蔵する。
なお、内閣府から2005年10月14日に発表された「原子力の研究、開発及び利用の推進(原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画)」の事後評価には、どのシナリオが最適であるかの結論が述べられておらず、わずかに原子力の推進にはプルトニウム、ウラン等の有効利用が適切であると触れられているのみである。
なお、シナリオ3は再処理を行わないという選択であり、これは核燃料リサイクル政策の中止を意味する。
現在の核燃料サイクル政策 [編集]
上記シナリオ1から4までについて、10項目の視点から評価を行った結果、原子力委員会では、原子力政策大綱(2005年(平成17年)10月11日原子力委員会決定)において、「使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム、ウラン等を有効利用することを基本方針とする。」ことを決定しており、原子力政策大綱[5]は、2005年(平成17年)10月14日、原子力政策に関する基本方針として閣議決定されている。現行路線(上記シナリオ1)に基づき、2011年までの45年間に核燃料サイクルに投じられた金額は少なくとも10兆円に上っており、その原資は税金と電気料金からなる[6]。しかし六ヶ所村の再処理工場の稼動は延期が重ねられており、高速増殖炉もんじゅも複数回の事故により1994年の稼動開始以来わずか数か月しか運転できていない状況である。
但し下記の六ヶ所村の核燃料サイクル基地が稼働しても年間再処理能力は800トンであり国内の原子力発電所から発生する使用済み燃料は年間1000トンを超えており、「全量再処理」路線を掲げる長計に沿えば、第二再処理工場を建設する必要がある。また電気事業連合会は2003年12月の時点でバックエンド費用が総額18兆8千億円かかると試算している[7]。
日本における核燃料サイクル施設 [編集]
日本ではウラン鉱の採鉱・精錬等は行われていない。フロントエンドではウラン濃縮事業と燃料加工事業、バックエンドでは使用済み燃料再処理および放射性廃棄物の保管と低レベル放射性廃棄物の埋設処理が行われている。濃縮、燃料加工、使用済み燃料再処理に関しては国内の能力で需要を満たせておらず、大半を海外に依存している。高レベル放射性廃棄物の地層処分については設置場所を公募中である。以下は2010年3月末時点で[8]
注、以下の数値に関しては誤報が頻発している状況なので、随時確認・更新が必要である [9]
濃縮施設 国内での処理能力は1890トンU/年で国内需要の約三分の一である。
- 日本原子力研究開発機構・人形峠環境技術センター (岡山県鏡野町) 1988年より、2001年に役務生産運転終了、処理能力200トン-U/年。
- 日本原燃・ウラン濃縮工場(青森県六ケ所村) 1992年より稼働中、処理能力1,890トン-U/年。
転換・加工施設 成形加工能力1,823トン-U/年、転換加工能力475トン-U/年
- グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン (神奈川県横須賀市) 成形加工、1970年より稼働中、処理能力750トン-U/年。
- 三菱原子燃料 (茨城県東海村) 成形加工、1972年より稼働中、処理能力440トン-U/年。
- 原子燃料工業・熊取事業所 (大阪府熊取町) 成形加工、1972年より稼働中、処理能力383トン-U/年。
- 原子燃料工業・東海事業所 (茨城県東海村) 成形加工、1980年より稼働中、処理能力250トン-U/年。
- 三菱原子燃料 (茨城県東海村) 転換加工、1972年より稼働中、処理能力475トン-U/年。
再処理施設 2002年末までに5600トンUの処理がイギリス・フランスに委託された。
- 日本原子力研究開発機構・東海研究開発センター核燃料サイクル工学研究所 (茨城県東海村) 稼働1981~2007年 累計処理量1,140トン-U。
- 日本原燃・再処理事業所 (青森県六ケ所村) 2011年10月アクティブ試験中、2012年10月しゅん工予定であるが、使用済み核燃料の受入は2000年より始まっており当施設では3,165トンを保管している[10]。
廃棄物管理施設
- 日本原燃・六ヶ所高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター (青森県六ケ所村) 高レベル放射性廃棄物のガラス固化体の保管 1995年より稼働中、保管量1,338本(保管容量1,440本[11])
- 日本原子力研究開発機構・廃棄物管理施設 (茨城県大洗町) 高レベル以外の放射性廃棄物の保管 1996年より稼働中、保管量28,836本(200リットルドラム缶換算、保管容量42,795本)。
廃棄物埋設施設
- 日本原燃・濃縮・埋設事業所 (青森県六ケ所村) 低レベル放射性廃棄物の埋設 1992年より稼働中。累計搬入量218,707(200リットルドラム缶換算、保管容量412,160本)
- 日本原子力研究開発機構・廃棄物埋設施設 (茨城県東海村) 極低レベル放射性廃棄物の埋設 1995年より稼働中。1995年より稼働、1,670トンを埋設し1997年10月には埋設地の保全段階へ移行。
- 高レベル放射性廃棄物の地層処分施設は場所を公募・検討中。2033~2037年頃に施設の建設を開始する予定である。
この他、放射性物質等を陸揚げするむつ小川原港へは、専用道路が通っている。
核燃料サイクルの系列 [編集]
- ウラン核燃料サイクル
- ウラン235(天然・核分裂性・核燃料)+中性子 → 核分裂生成物(使用済み燃料)
- 自発核分裂を起こす天然資源を使い捨て(一部リサイクル)する、広義での核燃料サイクル。核種変換を前提とする、狭義での核燃料サイクルとは異なる。
核分裂性の弱い核種を、核燃料として使用できる核分裂性の強い核種へと転換するサイクルとしては、次の二つの系列が考えられる:
- ウラン-プルトニウム系列
- ウラン238(天然・非核分裂性)+中性子 → ウラン239 → ネプツニウム239 → プルトニウム239(核燃料)
- 高速増殖炉の主要なターゲットとされ、実用化に向けた試験が行われてるが、難航している(なお、ウラン系列は自然崩壊の系列で、これとは別のもの)
- トリウム-ウラン系列
詳細は「トリウム燃料サイクル」を参照
- トリウム232(天然・非核分裂性)+中性子 → トリウム233 → プロトアクチニウム233 → ウラン233(核燃料)
- 核兵器に必要なウラン235やプルトニウム239を主体としない、別の系列。現在、インドが重水炉による実用化を進めている(トリウム燃料サイクルとも呼ばれる。なお、トリウム系列は自然崩壊の系列)。
プルトニウムの使用法 [編集]
プルトニウムの核燃料としての使用法は現在のところ2種類に大別出来る。
出典 [編集]
- ^ エネルギー庁「ウラン資源」閲覧2011-8-22
- ^ 米国エネルギー庁"How much depleted uranium hexafluoride is stored in the United States?"閲覧2011-8-22
- ^ 日本原燃「低レベル放射性廃棄物の処分方法」閲覧2011-10-21
- ^ a b 『原子力施設運転管理年報』(平成22年版(平成21年度実績))
- ^ “原子力政策大綱”. 内閣府原子力委員会. 2011年5月31日閲覧。
- ^ “45年で10兆円投入 核燃サイクル事業めどなく”. 東京新聞 朝刊: p. 1. (2012年1月5日) 2012年1月12日閲覧。
- ^ “中国新聞 原子力を問う”. 中国新聞. (2004年6月11日) 2011年5月31日閲覧。
- ^ 原子力安全基盤機構「原子力施設運転管理年報(平成21年度実績)」閲覧2011-10-30
- ^ 経済産業省「平成22年度原子力施設における放射性廃棄物の管理状況及び放射線業務従事者の線量管理状況等に係るデータの誤りについて」
- ^ 日本原燃「アクティブ試験計画書」閲覧2011-10-30
- ^ 日本原燃のサイトでは2,880本とある。
参考文献 [編集]
【推進側の視点から】
【反対側の視点から】
- 高木仁三郎『核燃料サイクル施設批判』七つ森書館、1991年1月、ISBN 4822891089(高木仁三郎著作集5、2003年10月、ISBN 4822830098)
- 原子力教育を考える会『よくわかる原子力「核燃料は「リサイクル」できる?」』