2012年1月28日土曜日

ホットスポットとされる地域在住で、乳児がいます。本当に普通の生活をしても問題ないのでしょうか。


千葉県在住 30代 専業主婦 女性 の方からいただいたご質問
連日、ホットスポットと報道されている千葉県流山市在住です。
生後半年の乳児を育てています。
いろいろと報道されていますが、いろいろなサイトをみたりして冷静に生活していこうと努めて参りました。
先日、福島第一原発事故後の汚染マップが公表されましたが、流山市を含む千葉県北西部の汚染度が「チェルノブイリ事故の避難区域」に相当する。と書かれているサイトを見ました。
こちらの回答にあるように、本当に千葉県流山市で乳児が普通の生活をしても問題がないのでしょうか。
チェルノブイリの避難区域に相当する汚染というのは本当なのでしょうか。
今まで冷静に、冷静にと心がけてきましたが、最近は少しノイローゼ気味になってきてしまいそうです。
ご回答お願いいたします。
 
ご心労お察し申し上げます。回答が遅くなりましたことをお詫びいたします。
いただいたご質問に対しては、本サイトでの下記Q&Aもご参考となるかと存じますので、ご一読ください。
(1)http://radi-info.com/q-759/
(2)http://radi-info.com/q-855/
これらを踏まえて、質問者様の状況について補足させていただきます。
確かに、流山市の放射線量率は、周辺の市町村に比べると高い状況にあるようです。しかし、ホットスポットという用語が、センセーショナルに報じられているため、不安感をお持ちであることと存じます。流山市のホームページ(参考1)や、文部科学省による航空機モニタリング結果(参考2)によると、流山市内の放射線量率は、概ね0.3μSv/hとのことですので、その数値をもとにご参考までに評価致しました。
元来の放射線量率を0.05 μSv/hとして、高さ1m放射線量率が0.3 μSv/hである環境での、地表面の単位面積当たりの蓄積量から、空間線量率に換算する係数(参考3)を用いて、地表面附近の放射性セシウムの蓄積量を計算すると、それぞれ、3.33×104 Bq/m2となります(地表面でのセシウム134とセシウム137の蓄積量の比が1:1と仮定しました。)。合計すると6.67×104 Bq/m2です。上記の(1)のQ&Aの回答にもありますように、現状の流山市の状況がチェルノブイリ事故の避難区域に相当する(5.55×105 Bq/m2)とは言えないと考えられます。
ご参考までに、3ヶ月児の吸入摂取及び経口摂取による預託実効線量(※1)を見積もってみましたのでご参考にしていただければ幸いです。
再浮遊係数(※2)、3ヶ月児1日平均呼吸率(1日に吸い込む空気の量)を用いると、1日に吸入する放射性セシウムの量は、セシウム134、セシウム137それぞれ、0.095 Bqです。3ヶ月児がこれらの放射性セシウムを吸入摂取したの場合の内部被ばくによる実効線量は、0.000017 mSv(うち、セシウム134:0.00000667 mSv、セシウム137:0.0000105 mSv)となります。仮に、1年間(365日間)状況が変化せず、同じように吸入し続けると、0.0063 mSvとなります。実際には、窓を24時間365日全開にしているわけではないと思いますので、屋内に流入する放射性物質はより少なくなるため、ここで評価した実効線量よりも、実際の実効線量はより小さな値になることと思います。
上記で、地表面附近の放射性セシウムの蓄積量を、それぞれ3.33×104 Bq/m2と試算しましたので、セシウム134、セシウム137の地表面の単位質量当たりの蓄積量は、それぞれ513 Bq/kgです。(計算方法は、上記の(1)の本サイトQ&Aに掲載されております。)この濃度の砂が家の中まで流入して、1 kgをお子様が舐めた(経口摂取)場合の実効線量と計算してみますと(もっとも、1 kgもの砂の経口摂取は現実的にあり得ませんし、別な意味でも危険ですが。)、セシウム134、セシウム137それぞれを513 Bq/kg含む砂1kg経口摂取した場合の実効線量は、0.024 mSv(うち、セシウム134:0.013 mSv、セシウム137:0.011 mSv)となります。(計算方法については、上記の(2)のQ&Aに掲載しております。)
あまり神経質になりすぎず、通常通りの生活をしていただいて問題ないと、回答者は考えます。しかし、流山市を含めた日本(特に、東日本)で生活していく上では、「被ばく線量でのリスクがはっきりしないくらい低いとはいえ、少なからずリスクが存在するもの」と認識して生活することは大切です。これは上述した「問題ない」という判断と矛盾するかとお思いかもしれませんが、通常の生活の中で簡単に実施できる範囲であれば、それを実施して放射線の被ばくはなるだけ低減した方が、その影響の発生確率はより低くなるであろうという思想によったものです。そのような認識の下で、砂埃の多量に舞っている日は窓を閉める、定期的に床拭き清掃をする、外で遊んだあとは手をきれいに洗う等といった、通常の生活の範囲内で簡単にできることを行うだけで十分なリスク低減対策になるかと考えます。また、そのような対策は放射線関係だけでなく、その他の外的因子のリスクを低減させることに繋がると考えられます。極端な経済的負担を要する対策はせずに、今後、物理的に減衰してゆくことも踏まえて、過度な負担にならない範囲で屋外の除染活動を行うこともよいと考えます。もちろん、経済的に許される範囲内で、旅行などによって気分転換をなさることは、精神的解放にもつながりますので、とてもよいことだと考えます。
(※1)ここで、摂取したと仮定した放射性物質によって、摂取直後から生涯(70年間)にかけて受けるであろう総被ばく線量。
(※2)放射性物質の外気から建物内への侵入の割合は、気密性の高い建物で1/20~1/70、通常の換気率の建物で1/4~1/10といわれています(参考4)この数値は、アメリカ環境保護庁の研究によるもので、事故直後の放射性ヨウ素の吸入を想定した数値ですが、建物内への侵入という観点からすると、放射性セシウムでも同様と考えられます。
現在は、大気中に漂う放射性セシウムはゼロではありませんが、ほとんどありません。地表面に蓄積した放射性セシウムが再浮遊する割合も、1 Bq/m2に対して、3.3×10-8(1億分の3.3)Bq/m3(参考5)程度と見込まれております。事故直後の場合の再浮遊率でも、1 Bq/m2に対して、1.0×10-6(100万分の1)Bq/m3(参考3)とされております。
【ここで用いた係数】
・地表面の単位面積当たりの蓄積量から、空間線量率に換算する係数(参考3)
  セシウム137:2.1×10-6 (μSv/h)/(Bq/m2)
  セシウム134:5.4×10-6 (μSv/h)/(Bq/m2)
・地表に沈着した放射性物質が空気中に舞い上がる係数を示した再浮遊係数(安全側に評価された値):1.0×102 (1/m)
・3ヶ月児1日平均呼吸率(1日に吸い込む空気の量):2.86 m3/日
・3ヶ月児が1 Bqの放射性物質を吸入摂取の場合の実効線量(参考6)
  セシウム137:0.00011 mSv( = 0.11μSv)
  セシウム134:0.00007 mSv( =0.07μSv)
・3ヶ月児が1Bqの放射性物質を経口摂取した場合の実効線量(参考7)
  セシウム137:0.000021 mSv
  セシウム134:0.000026 mSv
(参考1)流山市ホームページ:http://www.city.nagareyama.chiba.jp/section/houshanou/kekka/ichiran.htm#ho
(参考2)文部科学省による航空機モニタリング結果:http://radioactivity.mext.go.jp/ja/1910/2011/09/1910_092917_1.pdf
(参考3)IEAE-TECDOC-1162「放射線緊急事態時の評価および対応のための一般的手順」(放射線医学総合研究所訳):http://www.nirs.go.jp/hibaku/kenkyu/te_1162_jp.pdf
(参考4)「原子力施設等における防災対策について」
(参考5)NCPR-R-129
(参考6)ICRP Publication 71の242ページの3 months(Cs-137)及び同236ページの3 months(Cs-134)を参照
(参考7)ICRP Punlication 72の27ページのCs134、Cs-137それぞれの3 monthsを参照

0 件のコメント:

コメントを投稿