2012年6月14日木曜日

原子力コードの開発整備


原子力コードの開発整備
(1)原子力研究開発コードの高度化
・粒子・重イオン挙動シミュレーションソフトウェア PHITS
PHITSは大強度陽子加速器施設、航空宇宙分野、放射線医療分野で特に重要となる重イオン(原子核)の物質中の輸送過程を取り入れた粒子挙動シミュレーションコードです。RISTはJAEAと協力してPHITSを開発しました。PHITSの詳細はPHITSのホームページ(リンク)を参照ください。
・核融合プラズマ解析ソフトウェア
JAEAでは、核融合プラズマの安定性向上を目指して、磁気流体力学(MHD)の安定性を判定するソフトウェアを開発中です。核融合炉のプラズマ密度や温度の変化する特性時間が3-5秒である事を考慮すると、プラズマ安定性解析ソフトウェアを1秒以下で実行し、核融合炉の運転中に安定性を実時間で監視・制御する事が可能となれば、運転効率が飛躍的に高まると期待されています。RISTではプラズマ安定性解析ソフトウェアの中核をなす並列化固有値ソルバーの開発を担当し、これまでにJAEA所有の計算機64プロセッサを使用して固有値ソルバーの実行性能を大幅に高め、1秒程度の実行時間を実現しました。今後、JAEAと協力し、固有値ソルバー以外の処理を高速化するとともに、これまでのノウハウを生かしたプラズマ安定性解析ソフトウェアの専用計算機の開発も勘案し、核融合炉の実時間のモニタリング及び制御を可能とする新基盤技術を確立することを目指しています。
・稠蜜炉心の燃料集合体内二相流挙動の解析
JAEAが研究を進めている革新的水冷却炉の稠密炉心内での気泡流と液膜流の挙動について、RISTでは大規模シミュレ一ションを行って二相流の構造を解明すると共に大規模データの可視化処理技術の開発等を行っています。これらのシミュレ-ションによって大規模な実験装置を用いた実験をせずに複雑な現象が解明することができます。
・拡散挙動解析のためのIT数値環境システムの構築
JAEAは放射性物質の拡散挙動解析のため、計算機ネットワーク上に東アジア規模の気象・海洋データを保有するI T数値環境システムの構築を進めていますが、RISTでは図に示すような計算結果の可視化、動画作成などの画像データベース機能の整備等を行ってきました。このシステムに接続した研究機関等による任意地域の災害の即時予測や環境研究、地方自治体による迅速な予測結果の検索が可能となり、応急対策の検討などに貢献します。
・ 原子力プログラムの高速化・並列化支援
計算機の性能は、ベクトル化や並列化等の適切な処理を施した計算プログラムを用いて、はじめて十分な性能が発揮されます。 RISTでは多くのプログラムをJ AEAの計算機システム上で高速化・最適化処理を施しております。
・ 種々の調査研究
原子力安全委員会からの受託調査
(2)大規模シミュレーション技術の開発・研究
・ナノスケールシミュレーション
ナノスケールの炭素構造体材料の諸特性の解明を目的として、機械特性を把握するための「並列量子分子動力学ソフトウェアCRTMD-PV」、電子状態解析のための「並列密度汎関数平面波法ソフトウェアDFT-PV」を開発しました。これらのソフトウエアを地球シミュレータ等を用いた大規模シミュレーションを行なえるように整備し、カーボンナノチューブ、フラーレンなどがナノスケール状態で示す新奇な機能・特性を発見したり、また産業に活用できる新材料開発に向けたナノチューブ生産プロセスのシミュレーション計算による検討を行っています。
・革新ソフトウェア
将来のペタフロップス級ハイエンドコンピューティングの効果的な利用や高度計算科学の発展を目指して、東京大学生産技術研究所が進めている「戦略的革新ソフトウェア開発」の一環として、これまで開発された戦略的革新ソフトウェア群に対し、並列化及びベクトル化や高速最適化を施して、ユーザの問題解決時間を短縮する共通基盤的なソフトウェア技術の研究を、地球シミュレータ等の計算資源を利用して進めています。    これまでに、ナノテクノロジー分野の第一原理電子状態及び分子動力学シミュレーションコード「PHASE」等を対象に並列化及び高速最適化を行い、並列化率についてはオリジナルと比較し18%の向上を得て、地球シミュレータにおける利用可能プロセッサ数を500以上に拡大しました。これらの結果実行時間で比較してプロセッサ数64では、オリジナルに比べて4-7倍以上の高速化を実現するとともに、検証問題の実行によりオリジナルの解と齟齬がなく、かつ物理的に妥当な結果が得られています。現在、流体等を扱う他分野の革新ソフトウェアにて、高速最適化研究を進めています。
・テラヘルツ
テラヘルツ波は光と電磁波の中間域(0.3~10THz)にあり、物質中の様々な励起振動数がテラヘルツ帯域に集中しているため、例えば、通信利用帯域拡大に向けたテラヘルツ帯デバイス開発のためのキャリア励起現象等の解明や、プラスチック爆発物、また環境、食物中の汚染物質の検出等に応用が期待されています。しかし、分析・検出に優れる連続波光源として量子カスケードレーザ等があるものの、1~4THzで低出力のため、実用の計測・分析には、広帯域で単色、周波数可変、またmW級の高出力を得られる新光源が必要です。
・地球温暖化
RISTでは平成10年から14年度にかけて、高精度の地球変動予測のための並列ソフトウェアに開する研究(文部科学省科学技術振興調整費)を行いました。この成果の一部を引き継いで、 「人・自然・地球共生プロジェクト」の温暖化予測日本モデルミッションの一環としての研究を東京大学気候システム研究センターに協力して推進しています。特に次世代高分解能気候モデルの研究開発として、積雲を直接表現する詳細な領域モデルを東西につなぎ合わせて地球全体をカバーする新しい高分解能全球気象モデルを開発し、温暖化や異常気象に大きく影響する赤道域の大気挙動について、地球シミュレータを使った研究を進めています。

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