2017年8月6日日曜日

リトルボーイ86

リトルボーイ英語: Little Boy)とは、第二次世界大戦においてアメリカ軍広島市に投下した原子爆弾ガンバレル型[1]ウラニウム活性実弾 L11)のコードネームである。いわゆる「広島原爆」「広島型原爆」である。
これは、人類史上初めて実戦で使用された核兵器である[2]原子力災害核実験原発事故など)や自然災害地震台風隕石衝突など)の規模を表記する際に、このリトルボーイを基準に「広島原爆n個分」と換算されることもある。

目次

概要

リトルボーイの構造。赤がウラン235。
全長3.12m、最大直径0.75m、総重量約5t。番号はMk.1。ウラン235を用いており、二分されたパイプの両端に置かれたウラン235の塊の一方を火薬の爆発力でもう一方のウラン塊にぶつけ、臨界量を超過させて起爆するガンバレル型である。
積載されたウラン140ポンド(約65kg)のうち、1.38%(約876.3g)が核分裂反応を起こしたと推定されている。[3]核出力TNT換算で約15kt(5.5 × 1013ジュール)である。

開発

ガンバレル型の原子爆弾が「どのように設計されたのか」は、未だに軍事機密扱いであり、情報公開されていない。
一部に、リトルボーイは ナチス・ドイツ製、もしくはその複写であったのではないか、とする説がある。この説の説明として、アメリカがガンバレル型の開発をした経緯がなく、当初よりプルトニウムを用いた爆縮式(インプロージョン型)の実験を行っていた、とされることがある。
しかし、アメリカ合衆国が研究していた、原子爆弾の当初構想は「ガンバレル型」であり、原子爆弾の研究を行っていた世界のどの国においても、構造が比較的簡易であり、インプロージョン型よりも基本部分の製造が容易であるガンバレル型の研究が行われていた。実際に米国ではプルトニウム239を材料としたガンバレル型のシンマン(Mark 2)として開発が行われていた。ただしMark2の開発は難航し、実際に中断・放棄されている。
米国および人類初の核爆弾稼働実験である「トリニティ実験」において使用された爆弾(ガジェット)もインプロージョン型である。では理論構造が単純であるとはいえ、取り扱いや安全性に疑問があり、実験実績のないガンバレル型を、なぜ投下第一号としたのか等の不明点が残るが、これもまた機密扱いであり明らかになっていない。リトルボーイ使用の3日後に長崎に投下されたファットマンは、トリニティ実験と同様の「プルトニウムを使用したインプロージョン型」である。
1943年頃、プルトニウムの過早反応が認識され、爆縮方式の設計がスタートする。1944年7月には、ほぼ全面的にプルトニウム爆縮式に開発努力は移行するが、トリニティ実験までは爆発成功の確信がなく、すでに爆弾設計としては完了しウラニウムの濃縮の進捗を待つのみとなっていたガンバレル型が予備として計画されたとされている。
大量のウラニウムを必要とするガンバレル型のリトルボーイの製造において、終戦間際にドイツ国内や潜水艦から押収されたウラニウムは使われなかったとする根拠はないが、量的には1939年の時点で カタンガ州(コンゴ)からおよそ一千トンが搬入されたウラニウム鉱石が原料の大部分を占めていた。

実験

1945年当時、この方式の検証のための核実験は行われていない。核実験による検証を経たのは、プルトニウムを使った爆縮方式のものが1945年7月16日、アメリカニューメキシコ州アラモゴード近郊のアラモゴード爆撃試験場(現:ホワイトサンズ・ミサイル実験場内「トリニティ・サイト」)で行われたのみである。これは一般には、既にウラン235を使った核分裂試験が原子炉内で行われていた為に核爆発を伴う検証そのものが不要であったとされているが、実際はテストを行うことで高濃縮ウランが不足し、この方式の原子爆弾の戦線への投入に遅れが生じることを、アメリカ軍が嫌ったというのが真相のようである[4]

安全性

ガンバレル型の原子爆弾は、安全性に大きな問題があるため、アメリカ合衆国で作られなくなった。完成したガンバレル型の原子爆弾は、推進薬に点火すると、必ず核爆発を起こしてしまうため、フェイルセーフが存在しない。
そのため、爆弾を搭載したB-29が墜落したり、何かのミスで投下前に推進薬が点火したりするなど、万が一の場合に備え、爆撃機に兵器係として原爆の技術者を同乗させ、その者が投下の前に手作業で砲身内に推進薬(コルダイト火薬)を詰めこむという安全対策を取ったほどである。
たとえ推進薬が無くとも、墜落の衝撃によって砲弾部が標的部に突入すれば、核爆発が起きる可能性が十分に高く、海中に墜落すれば、爆弾内に流入した水が減速材として働き、臨界状態になる可能性があった。このため海に落下すれば、周囲一帯を「危険地域」として閉鎖せざるをえなくなる。これらの危険性を排除できるだけの安全装置の開発は不可能であるとされ、ガンバレル型自体が開発中止になる原因となった。

経緯

焼失面積13,200,000m2、死者118,661人、負傷者82,807人、全焼全壊計61,820棟の被害をもたらした。爆心地の近くにあった広島県産業奨励館は、現在原爆ドームとして世界文化遺産に登録されている。
(原爆被害の詳細は広島市への原子爆弾投下を参照)

2017年8月3日木曜日

テラーウラム放射圧力法

放射圧力法

放射圧力法は、密閉された容器内で大量のX線光子が発生することで機能し、セカンダリーの核融合燃料を圧縮する。全体の大きさとプライマリーの特色として、2つの熱核爆弾が良く知られている。この一つはアイビー作戦の”マイク実験”であり、もう一つはB61型核爆弾のバリエーションである(巡航ミサイル用の)最新のW80型核弾頭である。マイク実験での放射圧力は7,300万バール(7.3テラパスカル)であったのに対し、W80では14億バール(140テラパスカル)にもなっている。 [9]

発泡剤プラズマ圧力法

発泡剤プラズマ圧力法は、チャック・ハンセンにより開発段階で提案されたもので、これは熱核兵器の容器内に充填する発泡剤に関する調査資料(現在は機密解除されている)を基にしている。
発泡剤を使用した熱核兵器の起爆構造は以下の様になる。
  1. プライマリー内のコアの周囲を囲んでいる高性能爆薬は、爆発すると核分裂燃料を臨界量まで圧縮し、核分裂連鎖反応を開始させる。
  2. プライマリーの核分裂によりX線が放射されるが、これは爆弾の容器部分により内側に反射され、ポリスチレンの発泡剤に放射される(X線の反射の意味については、下図を参照のこと)。
  3. X線を浴びた発泡剤は相転移を起こして高温のプラズマになり、これはセカンダリーに向かって行き”タンパー”を強力に圧縮し、”スパーク・プラグ”内で核分裂反応を始めさせる。
  4. プライマリー起源のプラズマ(外側)とスパーク・プラグ(内側)の両方から圧縮されることで、”重水素化リチウム”燃料は高温・高圧の熱核反応を起こす状態にまで加熱・圧縮される。また中性子の放射も受けることで、リチウム6の原子は2つの三重水素原子に分裂する。そして三重水素と重水素が核融合反応を始め、さらなる中性子と膨大な量のエネルギーを放射する。
  5. 核融合反応を始めた燃料は多量の高速中性子を発生し、これはウラン238で出来たタンパー、及び爆弾の容器に放射され、ウラン238は核分裂反応を始める(デザインによっては、全体の爆発エネルギーの約半分が、この核分裂反応によって発生する)。
これは完全な”核分裂-核融合-核分裂”反応となる。核分裂とは異なり、核融合は比較的”クリーン”な反応で、エネルギーは発生するが有害な放射性物質や多量の放射性降下物は発生させない。しかし(特に最後の)核分裂反応は、莫大な量の放射性降下物を発生させる。もしウラン製タンパーの材料をに変更し、最後の核分裂反応を起こさない様にすれば、核爆発の核出力は約半分になるが、放射性降下物は比較的少ない量に抑えることが出来る。
発泡剤プラズマ機構での起爆手順
A.起爆前の核弾頭:プライマリー(核分裂爆弾)が上側、セカンダリー(核融合燃料)が下側、両方ともポリスチレンの発泡剤により固定されている。
B.プライマリーで高性能爆薬が爆発し、プルトニウムの核が臨界量まで圧縮され核分裂反応が始まる。
C.プライマリーの核分裂はX線を放射し、X線は核弾頭容器の内側へ散乱し、ポリスチレンの発泡剤に放射される。
D.ポリスチレンの発泡剤はプラズマに相転移してセカンダリーを圧縮し、プルトニウム製のスパーク・プラグが核分裂を始める。
E.圧縮と加熱により、重水素化リチウム6の燃料は三重水素を生成し、核融合反応が始まる。中性子の放射はタンパーのウラン238の核分裂反応を起こさせ、火球の生成が始まる。
現在の発泡剤プラズマ圧縮法に対する技術的評価は、同様の高エネルギー物理学分野からの機密解除された分析結果に焦点が移っている。この分析によると、この様なプラズマによる圧縮法では放射性容器内での中性子の発生効率が低く、また発泡剤がプライマリーからのγ線とX線の吸収効果も低いことが知られている。プライマリーで発生したエネルギーの多くは、核弾頭容器の壁やタンパーの放射性物質に吸収されてしまう。この吸収されたエネルギーは、後述する”蒸発(アブレーション)”作用を起こさせると分析されている。
しかしながら、トリウムやウランの様な大きい原子量塩類を染み込ませたエアロゲル型材料は、プライマリーからのX線の高い吸収効果を発揮し、発泡剤のプラズマ圧力がセカンダリーを放射圧縮させることを可能にする。

タンパー・プッシャー蒸発圧力法

第3に提案された方法は、プライマリーによる圧縮機構がセカンダリーの外部層であるタンパー・プッシャー部や、重金属製の核融合燃料の容器に対し、強力なX線を放射しこれらを超高温にしてアブレーションさせる。これらの部分はセカンダリーの外側向けてに爆発的に膨張し、その反動でタンパーは内側へ凄まじい速度で押し込まれ、核融合燃料とスパーク・プラグ部分を強力に圧縮する。
蒸発機構による起爆の手順.
1.起爆前の核弾頭。上側にある階層状の球体がプライマリーの核分裂部である。下側にある円筒状の物体が、セカンダリーの核融合燃料である。
2.プライマリーで高性能爆薬が起爆され、核分裂性のコアが爆縮される。
3.プライマリーの核分裂反応が始まる。核の温度は数百万℃に上昇し、γ線と強力なX線が放射され、ホールラウムの内部、及びセカンダリーの容器とタンパーを加熱する。
4.プライマリーの核分裂反応は終了し、爆発が始まる。セカンダリーのプッシャー表面は高温になり、結果的に蒸発して膨張し、その反動でタンパー、核融合燃料、及び核分裂性のスパーク・プラグを内側に圧縮する。この結果、スパーク・プラグは核分裂反応を開始する。なおイラストには描かれていないが、セカンダリーの放射性容器も同時に蒸発し、外側に向けて膨張する(イラストを分かり易くするために除外している)。
5.セカンダリーの燃料が核融合反応を開始して、火球の生成が始まる。
重金属の蒸発による効果の概算は、比較的容易である。プライマリーが供給するエネルギーは、セカンダリーの容器全面に対して均等であり、各部分が熱平衡になるため、熱エネルギーによる効果を解析することが出来る。プライマリーが発生したエネルギーの殆どは、1つの光学的深度を持つX線によってタンパー・プッシャー外壁面に伝えられるので、その部分の温度を計算することが可能になる。外壁面が蒸発して膨張することによって発生する、タンパーの内側への移動速度は、基本的なニュートン力学により計算することが出来る。
この計算方法をアイビー作戦のマイク実験に適用すると、タンパーが蒸発して膨張力する速度は秒速290km(およそマッハ850)になり、内側への圧縮速度は秒速400km(およそマッハ1,180)になる(タンパー・プッシャーの75%が蒸発すると仮定した場合。これは最も効率が良くなる条件である)。これがW80核弾頭の場合には、ガスの膨張速度はおよそ秒速410km(マッハ1,210)、内側への圧縮速度は秒速570km(マッハ1,680)になる。タンパーの蒸発による圧力を計算すると、マイク実験では53億バール(530テラパスカル)、W80では640億バール(6.4ペタパスカル)になる[9]


ブースト型核分裂兵器89

ブースト型核分裂兵器

米国のW88核弾頭の構造予測図。これは、2ステージ型の核融合兵器であるが、第1段 (primary stage;上側の楕円形の部分) はブースト型核分裂爆弾である。"5.Boost Gas Cannister" が重水素 (Deuterium) ガスと三重水素 (Tritium) ガスのタンク。第1段のプルトニウム・コア (pit) の中空部に "Booster Gas" の表示がある。
ブースト型核分裂兵器: boosted fission weapon)または、ブースト型核分裂爆弾、あるいは強化原爆は、通常は少量の核融合物質を用いて余分な中性子を発生させ、核分裂の頻度を増加させることで、早期発火(predetonation、または未熟核爆発 (fizzle yield))を防ぐとともに核出力 (nuclear yield) を増強するタイプの核兵器(爆縮型核分裂兵器)を指す。
この方式による核分裂(そして核出力)の増強効果をブースト、そのためのメカニズムをブースターと呼ぶ。核融合反応を利用するが、それによる発生エネルギーの増加はごく僅か、恐らく1%程度であり[1]、その主な目的が核分裂反応の増強である点で水素爆弾などの核融合兵器とは異なる。
ブーストによる早期発火の防止は、原子炉級プルトニウム (reactor grade plutonium, RGPu) で核分裂兵器を製造する際の鍵となる技術でもある[2]。また、同量の核物質であれば、この技術を用いることにより、より大きな威力を得られるので、核弾頭の小型化には不可欠の技術とされる[3]
このブーストというアイデアは、1947年の秋から1949年の秋の間に、米国ロスアラモス国立研究所で初めて開発された[4]

長期内部被曝は猛毒性との通説に疑義を提起する資料

毒性

1945年以来、約10トンのプルトニウムが、核実験を通じて地球上に放出された。核実験による放射性降下物のため、既に世界中の人体中に1-2 pCi (0.037-0.074 Bq) のプルトニウムが含まれている[12]。また、核実験由来のプルトニウムが地表面の土壌に0.01-0.1 pCi/g (0.37-3.7 Bq/kg) 存在する[13]。このほか、原子力施設などの事故や、再処理工場からの排出[14]により、局地的な汚染が存在する。
プルトニウムの同位体は総て放射性である。このため、単体の金属プルトニウムならびにプルトニウム化合物は総て放射性物質である。化学毒性についてはウランに準ずると考えられている[15]。しかし、その化学毒性が現れるよりもはるかに少ない量で放射線障害が生じると予想されるため、化学毒性のみでプルトニウムの毒性を論ずることはできない[16][17]
プルトニウムの急性毒性による半数致死量は経口摂取で32 g、吸入摂取で13 mg[17][18]。長期的影響の観点では経口摂取で1150 mg、吸入摂取で0.26 mg(潜伏期間として15年以上)[19][20]である。また、プルトニウム239の年摂取限度(1 mSv/年)は、経口摂取で48 μg (11万 Bq) 、呼吸器への吸入では52 ng (120 Bq) である[21] プルトニウムは人類が初めて作り出した人工核種である[21]小出裕章は、α線源であるため放射線荷重係数が大きいこと、同じα線源である天然核種のウランなどと比べ半減期が短いため比放射能が高いこと、体内での代謝挙動(肺での不均等被曝は、発ガン性が極端に高くなる)の3点から「かつて人類が遭遇した物質のうちでも最高の毒性をもつ」と報告している[21]。プルトニウムの有害性は、体内に取り込んだ場合の内部被曝には特に留意すべきである。

体内摂取の経路と排出

プルトニウムを嚥下し消化管に入った場合、そのおよそ0.05 %程度が吸収され、残りは排泄される[22]。吸収された微量のプルトニウムは骨と肝臓にほぼ半々の割合で蓄積され、体外へは排出されにくい。生物学的半減期(体内総量が当初の半分になるまでの期間)はウランやラジウムと比べても非常に長く、一説には骨に50年程度、肝臓に20年程度と言われる[23][24]。放射線有害性は全てのα線源核種と同じであり、Puのみが特別というものでは無い。
最も有害な取り込み経路は、空気中に浮遊するプルトニウム化合物粒子の吸入である。気道から吸入された微粒子は、大部分が気道の粘液によって食道へ送り出されるが、残り(4分の1程度)が肺に沈着する。沈着した粒子は肺に留まるか、胸のリンパ節に取り込まれるか、あるいは血管を経由して骨と肝臓に沈着する[19][20]。そのため、他のα線・β線放射物質による内部被曝と同様に、IARC より発癌性があると (Type1) 勧告されている。また、動物実験では発癌性が認められているが、人においてはプルトニウムが原因で発癌したと科学的に判断された例はまだない[17]。α線源であるため、ICRPが定める線量係数[25][26]では 239Pu の経口摂取で2.5 × 10-7、吸入摂取で1.2 × 10-4と定められ、131I(経口摂取2.2 × 10-8)や 137Cs(経口摂取1.3 × 10-8)よりも1 Bq当たりの人体への影響が大きいと想定されている(一般には、α線はβ線よりも20倍の危険性があるとされている)。

長期内部被曝は猛毒性との通説に疑義を提起する資料

ATOMICA によると、米国での1974年までのデータとして、最大許容身体負荷量 (1.5kBq) の10-50 %摂取した例が1155例、同50 %以上が158例ある。このうち代表的な2例(世界大戦における原爆製造工場、冷戦期の兵器工場火災、でのPu含有ガス吸引)において、24年経過後で肺ガン『致死』は1名、42年経過後の『発症』では肺ガン3例と骨肉腫1例であった。これは被曝のない通常のグループよりも発生率が低い。ただ発症までの潜伏期が40-50年と長年であり、調査対象者も高齢化しており、疑わしい疾病を発症してもプルトニウムを病原と断定しにくいのも事実である。[20][27][28]

2017年6月25日日曜日

核兵器原料としてのプルトニウム

核兵器原料としてのプルトニウム

プルトニウムを生産する際に239Puのみ生成させることはできず、必ず複数の同位体が混在してしまう。前述のとおり 240Puは極めて容易に自発核分裂を起こすが、核兵器において240Puが一定量以上存在すると、自発核分裂により核兵器の内部に設計よりも早く核分裂連鎖反応が始まる部分が生じ、そのエネルギーでプルトニウム全体が核分裂を始める前にばらばらに吹き飛んでしまう(過早爆発)。爆縮レンズを用いたインプロージョン型核兵器では240Pu が10 %程度以上混入すると過早爆発となるが、ガンバレル型の場合は 240Pu が1 %前後混入しただけで過早爆発が起きる。このため、プルトニウムを用いる核兵器ではインプロージョン型設計の採用が必須となる。実際に、マンハッタン計画ではガンバレル型プルトニウム原爆シンマンも設計されていたが、過早爆発を防ぐのは困難として開発が中止されている。結局、核兵器原料とするプルトニウムは240Pu の含有量を10 %以下とする必要があるが、これは軽水炉では実現困難なため黒鉛炉を使用して生産される。
240Pu の混入という課題は核兵器開発において二つの側面をもつ。一つは混入による過早爆発対策として爆縮レンズ技術を開発する必要が生じ、マンハッタン計画に遅れと障害をもたらしたこと、もう一つは爆縮レンズ技術自体が極めて高度な技術であり、容易に獲得できるものではないため、他国の核開発における技術障壁になったことである。なお 239Pu の同位対比が約90 %を越えるプルトニウムは兵器級プルトニウム英語版と呼ばれる。アメリカ国内で生産された兵器級プルトニウムは、工場によりプルトニウムの同位体比が下表のようになっていた[9]
製造工場 {\displaystyle {\ce {^{238}Pu}}} {\displaystyle {\ce {^{239}Pu}}} {\displaystyle {\ce {^{240}Pu}}} {\displaystyle {\ce {^{241}Pu}}} {\displaystyle {\ce {^{242}Pu}}}
Hanford 0.05 %以下 93.17 % 6.28 % 0.54 % 0.05 %以下
Savanna river 0.05 %以下 92.99 % 6.13 % 0.86 % 0.05 %以下
Rocky Flats Soil 極微量 93.6 % 5.8 % 0.6 % 極微量


2017年4月14日金曜日

福島研究基盤創生センターの取り組み

福島研究基盤創生センターの取り組み

福島研究基盤創生センターでは、東京電力HD福島第一原子力発電所の廃止措置に必要不可欠な研究開発拠点として、 楢葉遠隔技術開発センター(遠隔操作機器・装置の開発実証施設)の運用及び大熊分析・研究センター(放射性物質の分析・研究施設)の整備を進めています。

楢葉遠隔技術開発センター

楢葉遠隔技術開発センターは、廃炉作業等に必要な遠隔操作機器・装置(ロボット)に関する技術基盤を確立するための実証試験や要素試験を行う利用者のための施設です。 福島第一原子力発電所の廃止措置に係るものに限らず、災害対応を含むロボット等の開発・実証試験を行うことができます。 また、廃止措置推進のための施設利用を目的として、機構自らの技術開発もしています。
詳しくは、楢葉遠隔技術開発センターのホームページをご覧ください。

大熊分析・研究センター

大熊分析・研究センターは、福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた個体廃棄物の性状把握等を通じた研究開発、燃料デブリの処理・処分方法に関する技術開発等に利用される施設です。 この施設は、分析作業員の居室やワークショップ等がある施設管理棟、ガレキ類、焼却灰、水処理二次廃棄物の放射性の固体廃棄物の分析を実施する第1棟、主に燃料デブリの分析を実施する第2棟から構成され、福島第一原子力発電所の隣接つに整備します。 なお、施設管理棟については、2016年9月より建設工事を開始し、2017年度中に運用を開始する予定です。

建設予定地

施設管理棟(建設中)

施設管理棟は、居室、会議室、事務室、ワークショップ等から構成される放射性物質を扱わな
     い施設です。

第1棟(建設準備中)

第1棟は、低・中線量のがれき類、焼却灰、樹木、水処理二次廃棄物等を分析するための施設
     です。

第2棟(詳細設計中)

第2棟は、燃料デブリ、高線量のがれき等を分析するための施設です。

2017年4月5日水曜日

日本の未来、30年後は存在するのか?

 日本の未来、30年後は存在するのか?

平成から新しい年号、平成時代の終焉である。
日本原子力崩壊省、福島解体処理場、産業経済環境破壊省と新な「天下り先」の確保、福島の復興支援には必要不可欠、加えて「東京芝浦原発所」、「東京エネルギープラント」の新設は必須であると言えよう。
 原発が無理なら、水爆以外に選択の余地は無いのが、今現在の我が国、日本である。
六十年ぶりの「東京オリンピック」、不発弾と言える興業、経済効果は期待できぬと言える現状、国民が打って出る、「博打」賭博である。ギャンブルに反対する人びとに言いたい!「人間、生きてるだけで博打!」「一寸先は、闇」、必ず訪れる「破滅、崩壊」である。
明日のことすら、予測不能、「30年先は、妄想でしかない!」
現時点で言えるのは、被爆後30年問題、遺伝子破壊の悪影響、責任転換なすり合いの泥仕合、そして自然災害と「30年先まで、果てし無く続く事実!」日本が存在する根拠は、何もない。無責任な言動、平成時代の終焉は、日本の政治が物語る「国会」や「議会」が良い例と言える。
断言しよう!、「30年後は、存在しない!」

2017年3月30日木曜日

基礎生物学研究所

基礎生物学研究所(きそせいぶつがくけんきゅうじょ、英:National Institute for Basic Biology)は、自然科学研究機構を構成する、愛知県岡崎市にある大学共同利用機関である。
基礎生物学分野における日本の中核的な国立研究所である。生物現象の本質を分子細胞レベルで解明することを目標に、幅広い研究活動を行っている。国家事業であるナショナルバイオリソースプロジェクトメダカ分野を担当している。

生理学研究所

生理学研究所(せいりがくけんきゅうじょ、英:National Institute for Physiological Sciences)は、自然科学研究機構を構成する、愛知県岡崎市にある大学共同利用機関。人体基礎生理学分野における日本の中核的な国立研究所である。人体の生命活動を総合的に解明することを目標に研究活動を行っている。
国家事業であるナショナルバイオリソースプロジェクトニホンザル分野を担当している。
総合研究大学院大学の大学院生に対する教育も実施している

自然科学研究機構

 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(しぜんかがくけんきゅうきこう、National Institutes of Natural Sciences、略称:NINS)は、国立大学法人法により設立された大学共同利用機関法人国立天文台核融合科学研究所分子科学研究所基礎生物学研究所生理学研究所から成る。主たる事務所を東京都港区虎ノ門に有する。総合研究大学院大学の大学院生に対する教育も実施している

研究組織

組織構成から分かるように、自然科学の幅広い領域を研究対象としているとともに、国際的な研究活動が行われている。研究活動は各研究所にて実施。各研究所における実務は、各研究所の名称が示すとおりの研究活動を実施している。

事務組織

  • 本部事務局 (東京都港区)
  • 天文台事務部 (東京都三鷹市)
  • 核研管理部 (岐阜県土岐市)
  • 岡崎統合事務センター (愛知県岡崎市)
本部事務局は、行政機関である文部科学省への報告並びに指示を受ける機関である。 三鷹、土岐、岡崎の各キャンパスにある事務所は、経理などの管理業務を行っている。

沿革

大学の研究者などが共同で研究を進めるための機関として、相次いで設立された研究所が、2004年度の国立大学法人化に合わせ、統合及び法人化されて現在の機構になった。 1988年総合研究大学院大学の設立に伴い、総合研究大学院大学の基盤機関として、大学院生に対する教育が開始された。

歴代機構長

  • 2004年 初代機構長に志村令郎京都大学名誉教授が着任。
  • 2010年 2代目機構長に佐藤勝彦東京大学名誉教授が着任。

機構の目的

天体観測や高温プラズマ物理学、生命科学、分子反応科学などの自然科学領域における基礎科学の国立研究機関を横断的に統合再編した法人が自然科学研究機構である。文部科学省の研究機関が、予算及び分野によって再編され成立した大学共同利用機関法人の1つでもある。 独立行政法人との違いとして、独立行政法人が官民共同の利用機関であるのに対して、大学共同利用機関法人は官学共同の利用法人であると説明されることがある。しかしこれは、名称からのものでしかなく、どちらの法人も産官学の連携を重視している点に変わりは無い。独立行政法人は、行政サービスの効率化を目指した運営がなされるものであり、行政の定めた研究目的を目指して研究がなされる。これに対して、大学共同利用機関法人は、学術研究の更なる発展を目指して運営が行われており、単独の大学では整備することが難しい先端研究施設を、大学の学術研究分野で研鑽を行う人々のために、国公私立を問わず提供することを目的とした国家政策に基づく法人である。現在は、産業領域においても複数の大学が連携した理論的かつ実証的研究が重視されており、大学共同利用機関法人の活用が期待されている。具体的には、医薬品や半導体デバイスのような高い水準の製品開発に繋げるために開発された化学物質等の基礎サンプルに関する検証分析や、衛星写真や顕微鏡写真などの映像を出版・放送など文化産業の分野へ提供することなどである。

アクセス

岡崎キャンパス

〒444-8585 愛知県岡崎市明大寺町字西郷中38
生理学研究所、基礎生物学研究所、分子科学研究所などが位置する。
名古屋鉄道本線東岡崎駅が最寄り駅。東海道新幹線豊橋駅名古屋駅(あるいは金山駅までJR東海道線中央線で行っても良い)にて名鉄本線へ乗り換えで、いずれも30分程度。中部国際空港からは東岡崎駅へは名鉄が利用できる他、直行バスもある。いずれも1時間程度。
  • 明大寺地区:生理学研究所、基礎生物学研究所、分子科学研究所)駅から南口を出て徒歩5分程度
  • 三島地区:岡崎カンファレンスセンター、三島ロッジが位置する。駅から南口を出て徒歩10分程度。
  • 山手地区:統合バイオサイエンスセンターが位置する。駅から南口を出て徒歩20分程度。あるいは名鉄バス「竜美丘循環」に乗り竜美北1丁目下車(所要時間5分)、さらに徒歩で3分。

国立天文台

〒181-8588 東京都三鷹市大沢2-21-1
JR中央線武蔵境駅南口3番乗り場から小田急バス境91系統京王線調布駅行き、天文台前で降車。15分程度。
京王線調布駅から北口11番乗り場から小田急バス境91系統武蔵境駅南口行き、鷹51系統三鷹駅行き。また北口12番乗り場から京王バス武91系統武蔵小金井駅行き。いずれも天文台前で降車。15分程度。

核融合科学研究所

〒509-5292 岐阜県土岐市下石町322-6
JR東海多治見駅3番乗り場から東濃鉄道バス研究学園都市センター行きあるいは土岐プレミアム・アウトレット行き、研究学園都市センターで下車1分。

脚注

  1. ^ 自然科学研究機構 予算 2010-04-21 閲覧
  2. ^ 自然科学研究機構 外部資金 2010-04-21 閲覧
  3. ^ 自然科学研究機構 職員数 2010-04-21 閲覧
  4. ^ 自然科学研究機構 大学院教育 2010-04-21 閲覧

外部リンク

核融合炉の実用化

核融合炉

QUEST(九州大学
QUESTへの電源供給施設
核融合炉(かくゆうごうろ)は、現在開発中の原子炉の一種で、原子核融合反応を利用したもの。21世紀後半における実用化が期待される未来技術の1つである。
重い原子たるウランプルトニウム原子核分裂反応を利用する核分裂炉に対して、軽い原子である水素ヘリウムによる核融合反応を利用してエネルギーを発生させる装置が核融合炉である。現在、日本を含む各国が協力して国際熱核融合実験炉ITERフランスでの建設に向けて関連技術の開発が進められている。ITERのように、核融合技術研究の主流のトカマク型の反応炉が高温を利用したものであるので、特に熱核融合炉とも呼ばれることがある。太陽をはじめとする恒星が輝きを放っているのは、すべて核融合反応により発生する熱エネルギーによるものである。これは核融合炉が「地上の太陽」と呼ばれる由縁である。恒星の場合は自身の巨大な重力によって反応が維持されるが、地球上で核融合反応を発生させるためには、人工的に極めて高温か、あるいは極めて高圧の環境を作り出す必要がある。
核融合反応の過程で高速中性子をはじめ、さまざまな高エネルギー粒子の放射が発生するため、その影響を最小限に留める必要がある。そういった安全に反応を継続する技術、プラズマの安定的なコントロールの技術、超伝導電磁石の技術、遠隔操作保守技術、リチウム重水素三重水素を扱う技術、プラズマ加熱技術、これらを支えるコンピュータ・シミュレーション技術などが必要とされ開発が進められている。

目次

核融合反応

原子番号28ぐらいまでの軽い元素では、核子一個あたりの結合エネルギーが比較的小さいので、原子核融合によって余分なエネルギーが放出される可能性がある。しかし、原子核の電荷が互いに反発して反応を阻害するため、実際にエネルギーを取り出して利用できるような形で反応を起こすことが可能なのは、電荷がごく小さい水素リチウムなどに限られると見られている。実際に核融合反応で発電するためには、原子核が毎秒1000km以上の速度でぶつかりあう必要がある。プラズマの温度を高くするために外部から加えたエネルギーと核融合反応により発生したエネルギーが等しくなる条件を「臨界プラズマ条件」と呼び、D-T反応(重水素三重水素の反応)では「発電炉内でプラズマ温度1億℃以上、密度100兆個/cm3とし、さらに1秒間以上閉じ込めることが条件」と、いうことになる。2007年10月現在、この条件自体はJT-60及びJETで到達したとされているが、発電炉として使用出来るまでの持続時間等には壁は高く、炉として実用可能な自己点火条件と言われる条件を目指し挑戦がつづいている。

利点

  • 核分裂による原子力発電と同様、二酸化炭素の放出がない。
  • 核分裂反応のような連鎖反応がなく、暴走が原理的に生じない。
  • 水素など、普遍的に存在する資源を利用できる。
  • 原子力発電で問題となる高レベル放射性廃棄物が継続的にはあまり生じない(もっとも古くなって交換されるダイバータやブランケットといったプラズマ対向機器は高い放射能を持つことになる。ただし開発が進められている低放射化材料を炉壁に利用することにより、放射性廃棄物の浅地処分やリサイクリングが可能となる)。
  • 従来型原子炉での運転休止中の残留熱除去系のエネルギー損失や、その機能喪失時の炉心溶融リスクがない。
などが挙げられる。

欠点

  • 超高温で超高真空という物理的な条件により、実験段階から実用段階に至るすべてが巨大施設を必要とするため、莫大な予算がかかる。
  • 反応条件が緩やかなD-T反応でも1億度程度の高温でなければ十分な反応が起こらず(反応条件が厳しいD-D反応では10億度、太陽内部の陽子-陽子連鎖反応を人工的に再現するには50億度以上)、そのような高温状態では物質はプラズマ状態となる
  • 炉壁などの放射化への問題解決が求められる(後述)。

安全性・危険性

反応の停止
核融合反応は核分裂反応と違って反応を維持するのが技術的に大変困難であり、あらゆる装置の不具合や少しの調整ミスが自動的に核融合反応の停止に結びつき、簡単には反応を再開出来ない。これはむしろ安全にとっては良い特性であり、現在の核分裂を使った商業用原子炉の根本的な危険性とは無縁である。
放射性廃棄物
核融合反応で発生する中性子は、核融合炉壁及び建造物を放射化する。放射化された核融合炉周辺の機械装置や建物が安全に本来の機能を発揮出来るような設計が求められる。たとえばITERにおいては2万トンの低レベル放射性廃棄物を発生させると推測されている(東海発電所の廃止措置に伴う物と同程度の量)。今後建設されるそれらの建物はすぐに廃棄できず既存の原子炉と同様30年程度の冷却期間が必要だと予想される。地層処分などの問題は現在の原子炉と同じ様に、費用の問題や環境汚染対策が必要である。
古くなったダイバータやブランケットは定期的に放射性廃棄物として発生するのでこれらの処理も必要となる。これらの発生頻度を最小化する部材技術の開発が求められる。また、三重水素の燃料化プロセスでも放射性廃棄物への配慮が必要となる。
三重水素の放射性
三重水素は放射性物質であり正しく管理される必要がある。特に環境への漏洩阻止は重要である。三重水素は容易に通常の水素と置き換わるので、漏洩した場合には三重水素を含む水や有機物が自然界で生じ、これらは生物の体内に容易に取り込まれる。三重水素水が生物に取り込まれた場合、通常の水と化学的な相違点は僅かであるため特定の臓器などに蓄積されたり体内で濃縮されたりする事はほとんどなく、通常の水と同じように排出される。生物が三重水素水を取り込んだ場合に半分が排出されるまでの時間(生物学的半減期)は、人の場合10日から14日程度とされる。また、三重水素を含む有機物を取り込んだ場合には、その有機物に見合った蓄積性と濃縮性を示す。ただし、三重水素は拡散しやすいため一点に留まらず、また水素が地球上に遍在するために三重水素が環境に放出されても希釈が早く生物濃縮なども受けにくい。このため、特定の食品などに濃縮されることなどは考えにくい。
三重水素の核兵器への転用
三重水素は初期の核融合爆弾にも用いられたが、後に、入手性/取り扱いともにより容易な重水素化リチウムが利用されるようになったため、わざわざ三重水素が水爆に利用されることは考えにくい。また、現在の技術では核融合爆弾の起爆には原子爆弾を用いる外に手段が無いため、既存の核保有国以外が製造することは容易ではない。ただし、通常の放射性物質同様、三重水素を原料にした汚い爆弾は容易に作ることができるがエネルギーが低いため皮膚すら貫通できず、他の材料を使った汚い爆弾に比べると実害は少ないとされる。
運転中の放射線
核融合炉の運転中はプラズマから強烈な中性子線が放射されるため、さまざまな防護措置をとってもある程度漏れることが予想されている。現状、ITERで予定される運転中の放射線は、敷地境界で1年間に約0.1ミリシーベルト以下と自然放射線の10分の1に当たる量である。
超伝導電磁石
超伝導電磁石とそれを支える構造支持体は運転中に連続して大きな力を受け続け、起動や停止時にはその変化に応じた力学的ストレスを受ける。また異常に応じて磁力を突然切る場合は、瞬間的に大きな変化に耐えねばならず、中性子を浴び続ける構造支持体が脆化しても支えきれるだけの安全度を確保することが求められる。

核反応

核融合炉において,使用が検討されている反応は主に以下の3つである。なお、以下 Dは重水素、Tは三重水素(トリチウム)、pは水素原子核、nは中性子、Heはヘリウムである。

D-D反応

  • D + D \to T + p
  • D + D \to 3He + n
自然界でも原始星で起きている反応の一つである。核融合炉として使用する場合、資源の入手性が非常に良いが、反応条件が厳しく、D-T反応の10倍厳しい反応条件を達成する必要がある。D-D反応で生ずるトリチウムヘリウム3 をその場で燃焼させる触媒式D-D反応が検討されている。なお、JT-60を含む多くの核融合開発を目的とした実験装置において、重水素を使う実験が行われている結果、この反応が起きている。もちろん、投入エネルギーを回収出来る程ではない。

D-T反応

D-T反応
  • D + T \to 4He + n (14MeV)
反応条件が緩やかで、最も早く実用化が見込まれている反応である。核融合炉として使用する場合トリチウムの入手性に課題がある。トリチウムは、自然界においては、大気の上層でわずかに生成されるのみであり、半減期の短い放射性物質であるため事実上採取は不可能である。また、高速中性子が生成するため、炉の材質も検討が必要となる。現在検討されているトリチウム入手法は、核融合炉の周囲をリチウムブランケットで囲み炉から放出される高速中性子を減速させつつ核反応を起こし、
  • 6Li + n \to T + 4He + 4.8MeV
  • 7Li + n \to T + 4He + n - 2.5MeV
トリチウムを得ることである。このときブランケットは高速中性子を減速して遮蔽し、燃料を生産し、反応熱を取り出すと言う3つの役割をすることになる。欧州トーラス共同研究施設およびTFTRにおいてはこの反応を主反応とするような実験が行われた。

D-{}^{3}He反応

  • D + 3He \to 4He + p
イオン温度が10億度の条件において、反応断面積がD-D反応の5 - 6倍程度の条件とD-T反応程ではないが比較的起こりやすく、発生するエネルギーも荷電粒子である陽子が担い放射性物質も出ないので炉が扱いやすいこと(但し副反応のD-D反応で中性子が発生する)と、直接電力にエネルギーを変換することが可能なことで注目されている反応である。しかしながら、地球上にはヘリウム3がほとんど存在しないことが大きな問題である。アポロ計画の探査の結果太陽風によりには大量のヘリウム3が存在することが明らかになったが、実用化は非常に遠いと見られる。中華人民共和国月探査計画はヘリウム3採取を最終目的にしている。

核融合反応の候補

下記の核融合反応が核融合炉で利用可能と考えられている。
  • D + T \to 4He (3.52) + n (14.06)
  • D + 3He \to 4He (3.67) + p (14.67)
  • D + D \to 3He (0.82) + n (2.45)
  • D + D \to T (1.01) + p (3.03)
  • p + 6Li \to 4He (1.7) + 3He (2.3)
  • p + 6Li \to 4He + D + p - 1.5MeV
  • n + 6Li \to 4He + D + n - 1.5MeV
  • D + 6Li \to 7Li (0.6) + D + p (4.4)
  • D + 6Li \to 4He + T + p + 2.3MeV
  • D + 6Li \to 2 2He (1.12)
  • D + 6Li \to 7Be (0.43) + n (2.97)
  • D + 6Li \to 4He + 3He + n + 1.8MeV
  • D + 6Li \to 4He + 2D + n - 1.5MeV
  • 3He + 6Li \to 24He + p + 16.9MeV
  • p + T \to 3He + n - 0.8MeV
  • p + 11B \to 34He + 8.68MeV
(カッコ内は反応生成物のエネルギー MeV) [1]

現状と問題点

現在最も研究が進んでいるのは、磁気閉じ込め方式の一種であるトカマク型であり、現在計画中のITER(国際熱核融合実験炉)もこの方式を用いている。核融合の際に発生する中性子が炉壁などを傷つけるためにその構成材質の耐久力が問題となるとの指摘がある。[誰?]とりわけITERでは前述の「D-D反応」よりも反応断面積が約100倍大きい「D-T反応」を用いる計画であるが、D-T反応では高速中性子が発生する。
この高速中性子により炉の構成材内部では使用温度等にも依存するが、「照射脆化」が進行する場合がある。つまり原子が弾き飛ばされ材料内部に「原子空孔」(vacancy)や「格子間原子」が生じ(「フレンケル対」)、弾き出しが連鎖衝突した結果発生するつながった「格子欠陥」(「カスケード損傷」)により、これらの点欠陥集合体や析出物の形成等が生じることによって材料の降伏強度が高まるに伴い脆くなる。また構成材の原子が核変換を起こし発生したヘリウムガスが原子空孔と結びつくことによって材料の内部に空洞を形成し膨張する問題(スウェリング)も発生する場合がある。こういった劣化が一定以上進めば、もはや十分な耐久性を維持出来ないために交換を必要とする。また、脆化以外にも材料が放射化することから、低レベル放射性廃棄物が生成する問題も挙げられているが、低放射化フェライト鋼を用いることでITERのテストブランケットの構造材料は目処がたっている。[要出典][2]また、構成材内部とは別に炉壁表面でも問題が生じる。プラズマイオンが炉壁に衝突すると「物理スパッタリング」と呼ばれる炉壁材料原子のはじき出しが起こる。炉壁面に炭素素材を使用すると、水素同位体の入射でメタンやエチレンなどの炭化水素が発生して、炉壁が損耗する化学スパッタリングという現象も起こる。
その他、各種の閉じ込め方式があり、それぞれ各国で研究が進められている。日本では、核融合研究の中心は日本原子力研究所の「JT-60」(トカマク型)、核融合科学研究所などで進めているLHD(ヘリカル型)と、大阪大学で研究が進んでいるレーザー核融合である。
圧力の低いプラズマを保持することは比較的容易であるが、エネルギーとして利用可能な程度の圧力のプラズマを保持するのは難しく、前述のJT-60で、高圧力プラズマの保持時間は30秒程度である(この30秒という時間は加熱装置である中性粒子ビーム入射装置の稼働時間の上限で決まっている。現在ITERのために1000秒以上稼働できる装置を開発中である。)。また、保持のために投入するエネルギーに比較して反応により得られるエネルギーはまだ小さく(エネルギー増倍率(Q値) - 1.25)、世界の各種装置で核融合利得1を若干超える程度である。これらの課題については、ITERで研究が進められる予定である(ITERの目標値はQ値 - 10)。[要出典] [3]
1989年、常温核融合の発見が世間をにぎわせたが、その後の追試験で測定方法に欠陥があるとの認識が高まり現在は似非科学の一つとされ、ネイチャーをはじめとした主要な科学雑誌も常温核融合に関しては掲載拒否の方針を示している。

実用化に向けて

小型核融合炉について ロッキード・マーチン社は2014年10月16日、10年以内にトラックに積み込める大きさの100メガワット級商用小型核融合炉を開発すると発表した[4]。2013年2月7日に発表された高ベータ核融合炉の続報である。
2015年九州大学核融合科学研究所は、それまで理論的には予想されていながら実験で確認されていなかったプラズマの流れが磁場の乱れによって脆弱化する現象の観測に成功した[5]
2016年3月18日文部科学省は現在の実証炉ITER(イーター)以降の次世代炉を三菱重工東芝と共同で研究し2035年頃の建設を目指予定と日本経済新聞が報じた[6]

核融合炉の種類

脚注

[ヘルプ]
  1. ^ 核融合炉工学概論 関昌弘編 日刊工業新聞社 ISBN 4-526-04799-6
  2. ^ プロジェクトレビュー ITER 計画の機器開発・製作の進展 10.ITER テストブランケット計画 (PDF) 河村繕範ら, J. Plasma Fusion Res. 92, 444 (2016)
  3. ^ ITERの設計とは?
  4. ^ 米ロッキード、10年以内に小型核融合炉実用化へ (ロイター)”. Yahoo!ニュース BUSINESS. 2014年10月19日閲覧。
  5. ^ 「九州大学と核融合科学研究所、磁場の乱れ影響を観測」『日本経済新聞』(2015/1/19)>
  6. ^ 核融合炉、国内で研究 文科省が三菱重・東芝などと”. 日経新聞. 2016年3月18日閲覧。
  7. ^ Huge pulsed power machine enters fusion arena Z produces fusion neutrons, Sandia scientists confirm

参考資料