2012年3月27日火曜日

放射性物質:食品セシウム新基準値 4月から適用、どう変わる


放射性物質:食品セシウム新基準値 4月から適用、どう変わる

 食品に含まれる放射性セシウム(セシウム134と137)の新しい基準値が、4月から適用される。現行の暫定規制値から、どう変わるのか。特徴や課題をQ&Aで解説した。(文中のベクレルの数値は1キロ当たり)【小島正美】
 Q 新しい基準値の特徴は何か?

 ◇数値を厳格化、分類「5」→「4」

 A 食品の区分が現行の5分類から、「一般食品」「牛乳」「乳児用食品」「飲料水」の4分類になり、数値は暫定規制値に比べてかなり厳しくなります=表<上>参照。例えば一般食品は、欧州連合(EU)の規制値(1250ベクレル)や、食品の国際規格を策定する「コーデックス委員会」のガイドライン(1000ベクレル)の10分の1以下です。食品衛生法に基づき、基準値を超えた食品は出荷停止になります。
 Q 数値の根拠は変わったか?
 A 根拠となるセシウムの被ばく線量の許容上限値は、暫定規制値では年間5ミリシーベルトでしたが、新基準値は年1ミリシーベルトです。厚生労働省は、コーデックス委のガイドラインを参考にしたと説明しています。食品安全委員会の「生涯でおおよそ100ミリシーベルト以上で健康影響がある」との答申は算定に使われませんでした。つまり、根拠は日本、国際機関とも同じです。
 Q では、なぜ基準値が異なるのか?

 ◇汚染割合、高く設定

新基準の導入で自治体は今後も食品検査の対応に追われる=福島県いわき市の検査室で2011年9月
新基準の導入で自治体は今後も食品検査の対応に追われる=福島県いわき市の検査室で2011年9月
 A 流通食品の汚染割合の設定の違いが主な要因です。コーデックス委は流通食品の1割がセシウムで汚染されていると想定しましたが、日本は汚染割合を5割としました。「牛乳」「乳児用食品」は子ども、乳児の感受性が高いことに加え、汚染割合を100%と設定し、より厳しい基準となったのです。地域差は考慮されず、基準値は全国一律です。文部科学省の放射線審議会は「汚染割合の設定が現実的でない」などと修正を求めましたが、厚労省は「国民の安心確保のため、より安全側に配慮したい」と主張しました。
 Q 一般食品を使って離乳食を作ったら、乳児の健康に影響しないか?

 ◇乳児でも大丈夫な一般食品の基準値

 A なかなか鋭い質問ですね。厚労省作成の表<下>を見てください。各年代別に、セシウムの汚染が何ベクレルまで許容されるかを示しています。どの年齢層でも100ベクレル以下であれば、年間被ばく線量は1ミリシーベルト以下に収まるとしています。同省の試算では、例えば1歳未満なら、460ベクレルのベビーフードを1年間食べ続けても、被ばく線量は0・9ミリシーベルト程度です。しかし、乳幼児の感受性は大人より高いことが考慮され、基準値は50ベクレルとなったのです。同省は「乳児の健康は100ベクレルでも十分に守られている」(基準審査課)としています。
 Q 他の乳製品は?

 ◇チーズ、ヨーグルトは一般食品の扱いに

 A コーヒー牛乳や低脂肪乳など、加工された乳飲料は牛乳と同じ扱いです。ただしチーズ、ヨーグルト、乳酸菌飲料は一般食品の扱いです。
 Q ペットボトルのお茶飲料は「飲料水」か?

 ◇容器入り飲料茶は飲料水と同じ扱い

 A 水は命にかかわるため、世界保健機関(WHO)のガイドラインが参考にされ、10ベクレルと特に厳しく設定されました。容器入り飲料茶やミネラルウオーターは水と代替できるので、飲料水と同じ扱いです。ただし缶コーヒーや缶紅茶、缶ジュースは一般食品扱いです。一方、家庭で飲む緑茶は湯で煎じた状態で10ベクレル以下なら、茶葉(4月以降収穫)が500ベクレルを超えても、基準値以下とみなされます。飲食の状態に着目したのが、新基準の特徴です。
 Q 干しシイタケなど乾燥させた食品は?

 ◇原材料状態、食べる状態の双方で判断

 A 原材料の状態(乾燥前の生シイタケ)と、食べる状態(水で戻したもの)の双方を判断します。どちらかでも100ベクレルを超えたら流通できません。乾燥ワカメや乾燥野菜も同様です。他方、のり、煮干し、干しブドウはそのまま食べるので、乾燥した状態で一般食品の扱いです。
 Q 給食はどうなる?
 A 給食は一般に流通している食材を使っているので、文科省は区別せずに4月からは新基準値を適用していきます。
 Q 4月からの適用で混乱が起きないか?
 A 10~50ベクレル以下を保証するには1ベクレルまで測れる1台2000万円もする「ゲルマニウム半導体検出器」が大量に必要となるでしょう。しかし、高精度の機器を整備している自治体や企業は少ないのが実情です。基準値を担保するため、検査態勢の整備が急務です。
 Q 米などは経過措置が取られる?

 ◇収穫期、流通形態考慮し暫定値継続

 A 米と牛肉は9月末まで、大豆は12月末まで、暫定規制値が適用されます。米と大豆は年1回の収穫であり、牛肉は冷凍保存で流通するので、すぐに新しい基準値を適用できないためです。摂取量が多い品目ですが、暫定規制値でも安全性が確保されているとの考え方からです。
毎日新聞 2012年3月15日 東京朝刊

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