2012年3月6日火曜日

債務超過に陥る前に東京電力を実質国有化


政府が東京電力を国有化する意向を強めています。このことが報道されるたびに、東京電力の株価が下落しています。
 東京電力の国営化は、東京電力の経営や株価にどのような影響を与えるのでしょうか。
 この問題を考える上で参考になるのは、国有化された銀行のケースです。
 銀行の国有化は、2つのタイプに分かれています。
 1つは債務超過(負債が資産を上回る状態)に陥り、事実上経営破綻した銀行を立て直すための破綻処理を目的とした一時国有化。1998年の日本長期信用銀行と日本債券信用銀行などがこのケースにあてはまります。もう1つは、経営危機に陥った銀行を破綻する前に救済するための実質国有化です。2003年のりそな銀行がこれに該当します。
 一時国有化では、対象が経営破綻した銀行ですので、それらの銀行が発行していた株式は100%減資され、すべて紙クズ(無価値)となります。
 その上で、政府が公的資金を投入して株式をすべて保有し、不良債権を処理して、経営を立て直します。再建された銀行は、購入を希望する金融機関や投資ファンドなどに売却されることになります。
 ちなみに、日本航空は債務超過に陥ったため、100%減資されて上場廃止となり、政府に一時国有化されて再建を進めています。
 一方、実質国有化の場合には、従来の株式をそのまま残した上で、政府に新株を発行して大株主になってもらい、経営再建を進めることになります。
 このケースでは株式はこれまで通り、株式市場に上場していますので、従来の株主はいつでも市場で自由に売買することができます。
 国有化(公的管理)について政府では、東電株の3分の2以上を保有する形で、東電を事実上、国有化する方向で調整に入っている、と言われています。
 ということは、この場合の公的管理(国有化)は、一時国有化ではなく、実質国有化を意味しているということになります。

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 東京電力は、原発事故の賠償金は政府の支援を受けられるものの、廃炉の経費が膨大で、そのうえ原発に代わる火力発電の燃料負担増もあり、早晩、債務超過に陥ることは避けられそうにありません。
 そこで、債務超過に陥る前に東京電力を実質国有化し、賠償金の支払いや廃炉を円滑に進めようというのが、政府の狙いです。
 国有化されると、従来の株式が紙クズになるのではないか、あるいは政府向けに大量の株式が発行されて、株式の価値が希薄化するのではないか、という懸念が株式市場で広がっています。
 しかし、東京電力が自力で経営を続けることが困難なことは誰の目にも明らかです。政府が巨額の資金を投入するためには、東京電力自身が身を削るようなリストラを断行しなければ、国民の支持を得ることが難しいことは言うまでもありません。
 東京電力にその努力が足りないと多くの国民が判断すれば、政府による実質国有化によって、積極的にリストラを進めるしか方法がありません。
 実質国有化すれば、 電力業界の懸案である「発電と送電の分離」という難問も、東京電力管内から進めることが可能になります。
 また、一時国有化(あるいは経営破綻)では従来の株式が紙クズになる可能性が大きいですが、実質国有化であれば、従来の株式が無価値になるわけではありません。株式価値の希薄化(あるいは大幅減資)という問題は残りますが、紙クズになってしまうよりはましです。
 なお、東京証券取引所では上場廃止基準の1つとして「債務超過の状態になった場合において、1年以内に債務超過の状態でなくならなかった時(原則として連結貸借対照表による)」を挙げています。
 実質国有化されなければ、東京電力はいずれ債務超過=上場廃止となる可能性が大きくなります。
 このように見ると、東京電力の株価だけに限定して考えれば、一時国有化は売り、実質国有化は買い、ということになりそうです。
<筆者プロフィル> 1942年愛媛県生まれ。中央大学法学部を卒業後、株式専門誌などの編集・記者を経て、87年に経済ジャーナリスト・経済評論家として独立。証券、金融、不動産から経済一般まで幅広い分野で活躍中。的確な読みとわかりやすい解説に定評があり、著書は90冊を超えている。「もっともやさしい株式投資」「『相場に勝つ』株の格言」「相場道 小説・本間宗久」(日本経済新聞出版社)などがある。
<筆者プロフィル> 1942年愛媛県生まれ。中央大学法学部を卒業後、株式専門誌などの編集・記者を経て、87年に経済ジャーナリスト・経済評論家として独立。証券、金融、不動産から経済一般まで幅広い分野で活躍中。的確な読みとわかりやすい解説に定評があり、著書は90冊を超えている。「もっともやさしい株式投資」「『相場に勝つ』株の格言」「相場道 小説・本間宗久」(日本経済新聞出版社)などがある。

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